おススメ案件一覧(2023-05-21更新)

オーウェル評論集

心の一隅では、英国による統治は完全な圧政だ、被圧迫民族の意思を未来永劫に踏みつけるものだと思いながら、別の一隅では僧侶の腹に銃剣を突き刺してやったらどんなに愉快だろうと思っていたのだ。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

ユダヤ人を非難する人は自分の気に入らない具体的な行為(たとえば食料品を買う行列でのマナーの悪さ)をあげるけれども、この非難が単にもっと根の深い偏見をもっともらしく見せるためのものにすぎないことは、明白である。こういう人には、いくら事実や統計をならべて反論してみても無駄なのだ。いや、時にはむしろさらに悪い結果にもなりかねない。最後にあげたインテリ女性の言葉でもわかるとおり、自分の考えが矛盾していることは十分承知していても、やはりユダヤ人差別かすくなくともユダヤ人嫌いから逃れられない人もいるのだ。誰かが嫌いとなったら、これはもうただ嫌いなのであって、どうしようもないのだ。いくら相手の長所を並べてみても、そのために好意がもてるようになるというわけにはいかないのである。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

ナショナリストたるものは例外なく、どんな目にあまる不誠実な行為でもやってのけるが――自分より大きなものに殉じているという意識があるために――自分はぜったい正しいという不動の信念を持つこともできるのである。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

行為の善悪を判定する基準はその行為自体の功罪ではなく、誰がやったかという点であって、拷問、人質、強制労働、強制集団移住、裁判なしの投獄、文書偽造、暗殺、非戦闘員にたいする無差別爆撃――こうしたいかなる無法きわまる行為でも、それをやったのが「味方」だとなれば、まずたいていのばあいは道徳的な意味が微妙に変わってしまうのだ。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

わたしがとりあげたナショナリスチックな愛情の念は、好むと好まざるとにかかわらず、ほとんどすべての人間の気質の一部になっているのだ。これを除去できるかどうかはわからないが、これに抵抗することは可能なのであって、それこそがほんとうの道徳的努力だとわたしは信じる。そのためにはまず、自分のほんとうの姿、ほんとうの感情を知り、その上で逃れられない偏向を認めることである。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

すくなくとも自分にそういう感情があることを認識し、それによって思考過程が歪むのを防止することはできるはずである。誰もが逃れられない、そしてあるいは政治行動には不可欠なのかもしれない感情的な衝動には、同時に現実認識が伴わなければならない。だが、くりかえして言えば、これには道徳的努力を必要とする。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

オーウェルの最大の特徴は、けっして嘘をつかない――自分の目で見、耳で聞いた事実を理論で歪めず、かつ思想というものが、肉体を持ち無数の個性的背景を持つ人間の所産であることを忘れない点、文化の包括性を無視して整然たる――それゆえに不毛な建前論議に走らなかった点にある。

オーウェル評論集 (岩波文庫 赤 262-1)

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