『精神病理学の基本問題』を読んだ

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精神疾患は分からないことだらけ

専門家としての精神科医が社会から尋ねられるのは、「なぜこのような病気があるのか」とか「なぜこの病気は増えてきているのか」など、「なぜ」という問いがほとんどである。ところが、精神疾患のほとんどはいまだに原因不明なのだから、これらの「なぜ」にはエビデンスをもって答えることができないのだ。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

もしもうつ病が、SSRIを売りこむ製薬企業が説明するほどにそのメカニズムがよく理解されており、またその診断法と治療法もガイドラインとして確立でいるのであれば、うつ病の治療に精神科医はほとんど必要ないだろう。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

ところが実際にはそうではなく、精神科クリニックは世の中に必要とされている。それは、「うつ病」と呼ばれているものを中心とした精神疾患が、製薬企業が主張するほど、あるいは操作的診断が表示しているほどすっきりとは説明できず、診断も治療もはなはだ曖昧模糊としたものであるためである。他科の医師が対応できないようなあいまいな訴えに対して、なんとかして対応することこそ、精神科医だけがもつあいまいな技術なのである。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

クレッチュマーは分裂気質と循環気質という対概念について、「痩せている人は理屈っぽく、太っている人は感情的だ」という日常的な経験知の延長であると説明していたのだが、粘着気質についてはどうなのだろうか。「筋骨逞しい人は鈍重で粘り強い」というのは、どうも当時の下級軍人のイメージらしいのだが、しかしこれは日常的な経験知といえるだろうか?

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

分からないことだらけだから、このような私がそう思った以外にはロクに根拠を持たないような考えをいまだに相手にしないといけないらしい。理屈っぽいし感情的な人もいるよね? とか 痩せている人が太ったら感情的になるの? とか一々相手にするのもばかばかしいがな。フロイトにしてもそうだけど。  

精神科医に求められる条件

精神科医は診断する相手よりも知能が高いことが望ましく、理想的には最高度の知能をもっているべきなのである。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

一般的には知能と共感性は比例するので、知能が高い人は共感性も高いからである。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

PTSDの原因となるトラウマは、普通の人が経験したことがないほど強烈なストレスによって生じるものなので、治療者には追体験できず、<発生的了解>が困難なのである。
また、侵入症状、麻痺症状などのPTSD症状についても、健常者にもある程度までは想像できるとはいえ、完全に了解できるかどうかには疑問がある。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

幼いころからある程度は順調に社会のレールを歩まなければ精神科医になるのは難しい。でも、そのような(恵まれた)環境で育つと、精神科医にふさわしい能力は身につきにくいのかもしれない。

すなわち、彼らにとって人は仲間かそうでないかの二つに一つ、同じ仲間に属しているか、まったく意味のない存在かのどちらかなのだった。トラウマを負ったあとには、世の中はそのトラウマを知っている人と知らない人にすぱっと二分される。トラウマ体験を共有しなかった人は信頼できない。なぜなら、その体験が理解できないからだ。

『身体はトラウマを記録する』ベッセル・ヴァン・デア・コーク

医者と患者の共謀について

それらの本のなかでは、周りの人たちだけでなく、患者本人までもが「ASD患者は宇宙人のようなもので、普通の人とは住んでいる世界が違う」と主張している。しかし、本当に別の天体からきた宇宙人なら、われわれとの間にはいかなるコミュニケーションも成り立つはずがないだろう。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

患者の呈している抑うつや不安などの症状が、本当は患者の人格の未熟さに起因するものであるのに、医者がそれを脳の機能障害と捉えて患者に説明し、患者もその説明を受け入れたならば、両者にとってそれは<部分>の問題になってしまう。それは、患者にとっては、自分の人格の問題に直面せずに済むので楽な道である。同時に、自分の人格に自信をもっていない医者にとっても患者の人格を問題にして対立・緊張することを避けることができ、また躊躇なく薬物を処方できるので、やはり楽な道なのである。この病気の本当の原因はそんなものではないと、医者も患者も薄々わかっていても、お互いに楽な状態なので、できるだけそのままの状態を維持しようとする。実際にはこのような欺瞞的な事態が生じているのであって、これはいわば医者と患者の「暗黙の共謀」である。
この「暗黙の共謀」は、現代の精神科・心療内科の臨床においてきわめて広く行われているものと私は考えている。

『精神病理学の基本問題』深尾 憲二朗

医者も人間だから、面倒なことはしたくない。患者のほうも、病気だから仕方がないんだというように感じられた方が、自分の良くないところと向き合って克服するより楽。でも、悪いところは改善できないとしてもよくしようという姿勢くらいは見せないと、周りの人間からそっぽ向かれやすいんじゃないかな。

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この記事を書いた人

2020年から主にアプリ案件の攻略情報を載せたブログを書いてます。趣味はゲームと猫とそれから哲学。今日も一日がんばるぞい。

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